山形と暮らす

atelier bokka(山形県南陽市)|衒わずに自然に、暮らしのそばにアートをひらく。境内のとなり、穏やかに佇むまちのオープンアトリエ

こんにちは。今回は山形県南陽市の「atelier bokka」をご紹介いたします。

以前ご紹介した南陽市の「熊野大社」の境内そば、画家・イラストレーターとして活動されている吉田真理(よしだ・まり)さんのアトリエ兼ギャラリーショップとして2020年3月にオープンしました。

こちらの建物、atelier bokkaも含めジェラートやドーナツのお店も軒を連ねており、熊野大社そばの賑わいをつくる場所のひとつとなっています。

まちの中に開かれた絵画のアトリエ、制作の場所でもあり、描かれた様々な作品を鑑賞し購入することもできます。

今回はお時間をいただいて、主宰の吉田さんに作品のことやこの場所のこと、ご自身のプロセスや絵画との関わり方のことなど、お話を伺いましたので、その模様もお伝えできればと思います。

他にはない魅力を備えた場所です。熊野大社周辺のお出かけに、ぜひ立ち寄っていただければと思います。

atelier bokkaの外観

先述のとおり、atelier bokkaは熊野大社境内隣にあるこちらの建物、「ドーナツスタンドmaaru」および「gelato En.」の奥に位置しています。

正面ののれんをくぐり、通路を抜けて中庭に出ると、

こちらがアトリエです。表通りからひとつ路地に入ったような、静かな佇まい。薄暗くなった夕方の空気に、窓明かりが温かく映ります。

窓際には動物たち。その奥にはちらりといくつかの絵も見えます。

ドアを開けて入ると、ころころとかわいらしいカウベルの音と共に、吉田さんが出迎えてくださいました。

atelier bokkaの店内の様子

ドアを開けて店内に入ると、このような店内の風景。
正面のカウンター奥が、吉田さんの製作スペースです。

店内は1~2名ほどが入って、吉田さんとの会話を楽しみながらゆっくりと作品を眺められる、小さな心地よい空間です。
壁や窓際のテーブルには絵画のほか、トートバッグやステッカー、そしてクリスマス前ということもあり手描きのオーナメントも。

絵画の作品たち、画風やサイズも様々ですが、どれも額装などは特にされておらず、
自然に壁に掛けたり立てかけたり、また自分のお気に入りの額を探したりなど、自由に楽しんでいただけます。

ダイアログ

ここからは、アトリエ内の絵を眺めながら、実際に吉田さんとお話しした内容をダイアログ形式でお伝えいたします。

atelier bokkaのこと―暮らしのそばにあるアトリエとして

――――様々なタッチの絵があって、どれもとても素敵です。作品は油彩ですか?
油彩とアクリル絵の具です。油絵の具は乾きがゆっくりなので、さっと描きたいときにはアクリル絵の具を使っています。
実際の制作現場を見ることがなかなかないと思うので、新鮮な印象を持たれる方も多いですし、「学校の美術室みたい」と仰る方も多いですね。

――――窓際の作品、私もお店などで見たことのある商品のイラストも手掛けていらっしゃるんですね。
ありがたいことにお声がけいただいて、パッケージのデザインや本の表紙なども描かせていただきました。
大学では絵画の専攻だったので、デザイン的なことやクライアントワークの進め方など、学ばなかったことも多いのですが、イラストレーターとして活動する前の社会人としての経験や、小国町での活動(後述)等を通して、進め方の段取りや手順などを身に着けることができてきたかな、と思っています。

――――オープンアトリエというスタイルが、特に山形のような地方ではなかなか珍しい、と思うのですが、実際に活動してみていかがですか。
他にない形式だな、ということは感じます。実際に来て下さるお客様も、制作した本人と話をしながら作品を見たり、プロセスを聞きながら選んで購入できて嬉しい、という声もいただきます。楽しんで活動できていますね。

私自身も一緒で、展示会のような特別な場所だけではなく、作品を通したコミュニケーションを日常の中で行えることはとてもいいな、と思います。熊野大社の参拝やその周辺のお店を訪れてくださる方はもちろん、近所の方のお散歩コースになっていたりもして、本当に地域の方の暮らしのそばにある場所だと感じています。

2020年の3月、ここのオープン当初から活動を始めたのですが、当時はコロナ禍の真っ只中だったので人の出入りが少なかったぶん、作品の制作とお店をやることのリズムを含めて、「この場所に居ること」に意識を集中できたのがよかったな、と思っています。

山形という地域との関わりのこと

――――ご出身は山形ではない、とのことでしたが、山形に来られたいきさつはどのようなものだったのでしょう。
絵が好きで、高校も美術コースだったのですが、在学中の合宿で訪れたのが山形の東北芸術工科大学でした。そこで「この学校で学びたい」と思うようになったのがきっかけです。卒業後は一度県外で社会人として働いたのですが、「絵を描くことを軸にして暮らしていきたい」という想いが強くなっていきました。

そんなときに、小国町での「studioこぐま」の募集を見つけて、また山形に移住しようと決めました。

――――小国町での活動について聞かせていただけますか。
アートを活かして、様々な形での地域との関わりをつくる活動を行いました。ワークショップや講座、地域の行事やイベントでのイラスト制作やデザインなど、小国町での暮らしの中で、自分の身に着けたスキルを活かして関わっていました。

LAFRANで以前取材されていた「kegoya」さんには、移住の当初からずっとお世話になっていました。山形のような地方のまちで「芸術系」のスキルを活かそうとすると、その分野の担い手が少ないこともあって、本当に色々な領域のこと(デザイン、イラスト、ワークショップなど)を行える必要があって、その時に、芸工大卒業後の社会人の経験があってよかったな、と思っています。また学生時代に教職課程も学んでいたので、その経験も生きていたと感じます。

そのうちに、個人でのイラスト制作の仕事も少しずつ請け負えるようになっていって、また個展も小国町で開催することができました。

画家やイラストレーターの個展というと、真っ白なキューブ状の空間が一般的ですが、小国町での個展はお店の中で行ったので、日常の空間の中に突然非日常が立ち上がって混ざりあうような、そんな新鮮な空間の体験をしていただけたかなと思います。

「生きている姿」について―動物・横顔・後ろ姿のモチーフより

――――作品についてまた伺います。パッケージデザインなどを中心に、動物のモチーフが多く描かれているように感じますが、ずっと動物のモチーフはお好きだったのでしょうか。
いえ、そういうわけではありませんでした。芸工大に入学した当初はいまと絵の感じも全く違っていて、(以前のポートフォリオを取り出して)これが大学時代の前半の絵なんですけど、鉛筆で細密にデッサンをするような作品でした。

――――確かに、いまとはまた違いますね。変化したきっかけはあったのでしょうか?
子どもとワークショップをするようになって変わったかな、と思います。これが卒業制作の作品です。雪景色を書きたかったんですけど、その中に色を入れていきたいと思って。

――――とても素敵です。雪景色って、目に見えているところでは真っ白ですが、目に見えないところでこんな色彩が隠れているような気持ちになりますね。
ありがとうございます。このころにはもう、色々な色を加えていくようになっていました。

これは山形市の七日町、御殿堰の再開発の際に描いたものです。
工事中の仮囲いに描いた大きな絵だったのですが、なんだか絵巻物みたいで、ひとつの絵の中に時間の経過や季節の変化などを描くことができて、こういうものを描きたかったんだな、という手応えがありました。

――――動物を描くことの楽しさや、描く際に意識していることなどはありますか?
なんとなくですが、「いまにも動き出しそう」というか、生きている姿の中で見えるいびつさとか、ゆがみみたいなものが魅力なのかな、と思っています。
形は整っていなくてちょっとおかしいけれど、それが何とも言えずかわいい、というか、いとおしいというか。

――――アトリエの中の作品を拝見すると、人物の後ろ姿や横顔のモチーフも多いように感じました。
確かにそうですね。後ろ姿や横顔って、自分自身ではなかなか見ることのできない分、その人の飾らない姿というか、ある種の素の部分が見える気がするんです。そういうところに魅力を感じるのかもしれません。

(アトリエ内、眠っている女性の作品を見て)先ほどお見せした絵と構図が似ていますね。別な作品でもうたたねをしている人の絵を描いていたので、きっと好きなんですね。自然に生きていることの素が見える姿、のようなものに惹かれるのかもしれません。

まちとアートのこと

――――「atelier bokka」の「bokka」は、「牧歌」という言葉がもとになっていますか?
そうです。「牧歌的」の意味のbokkaで、言葉の意味やニュアンスが自分の描く絵の感じと合っているな、と思って名前をつけました。

――――こうして、暮らしと一体化するようなアトリエをなさっていると、日常とアートや、美しいものを感じること、という事柄との距離が近くなるように感じます。
そうですね。ここを訪れる人の中にも、実はアートにかかわりたいと思っている方がいらっしゃるのを感じます。ワークショップなどはしばらく開催していないのですが、例えば親子参加のワークショップを開催すると、子どもさん以上に親御さんが生き生きとしていらっしゃる姿に出会えたりします。
描くことやつくること、きれいなものを見てきれいだな、と感じることなど、それらが日々の暮らしと近くなるといいな、と思っています。

――――たくさんお話を伺いました、ありがとうございます。私自身も、暮らしている場所のそばに、こんな場所ができてとても嬉しい、と思っているひとりです。きっとまたお話を伺ったり、絵を見に伺わせてくださいね。
はい。ぜひいつでも誰でも、気軽に遊びにいらしてください。

atelier bokkaの特典やサービス

オンラインストアでの購入も可能です

atelier bokkaではオンラインショップでの購入も可能です。ギャラリーを訪れて迷った作品や各種のグッズも、いつでも購入できるのがうれしいですね。

ゆっくり作品を鑑賞して、ご自宅に戻ったのちも、自身の生活にどのように取り入れていくか、考える時間も楽しいものです。

▼atelier bokka オンラインショップ
https://atelierbokka.theshop.jp/

▼atelier bokkaのInstagram
https://www.instagram.com/mari.y_artworks/
アトリエのオープン日やイベント、新しい作品のことなど、各種情報はatelier bokkaのInstagramから確認することができます。アカウントの投稿そのものも、ギャラリーの作品群のようです。ぜひフォローしてご覧になってみてくださいね。

おわりに

今回は南陽市の「atelier bokka」をご紹介しました。
実際にアトリエの様子をじっくりと見せていただいたり、吉田さんとゆっくりお話させていただくなかで、素朴で飾らず、優しいそよ風の心地よさを感じ、気持ちが晴れやかになる風景の中に居るような時間を過ごすことができました。
観光やお出かけの機会はもちろん、穏やかな気持ちで美しさを感じられる場所が暮らしのそばにあること、豊かで素敵なことですね。
熊野大社へのご参拝の前後に、ぜひお立ち寄りくださいね。

 

店名 atelier bokka
住所 〒992-0472 山形県南陽市宮内3647-2
交通手段 山形鉄道フラワー長井線「宮内」駅より徒歩約15分
オープン日・営業時間 公式Instagramよりご確認ください
オンラインストア https://atelierbokka.theshop.jp/
公式インスタグラム https://www.instagram.com/mari.y_artworks/
ABOUT ME
トミヤ
1990年生まれ、山形県出身。珈琲と音楽と手仕事が好き。山形の虚飾のないひたむきな人やもの、場所を届けます。
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